筆跡鑑定と裁判

筆跡試料作成2020

筆跡鑑定と裁判の実例

筆跡鑑定が民事裁判(訴訟)に係る実例として一番多いのは,自筆証書遺言書無効確認の裁判です。遺言書は遺産相続の分配を決めるため相続人や代理人(弁護士)から筆跡鑑定が依頼されます。

筆跡鑑定が民事裁判(訴訟)に係る実例として次に多いのは,金銭や不動産などの貸借契約です。貸主と借主(借りてないと主張)の双方や代理人(弁護士)から筆跡鑑定が依頼されます。

筆跡鑑定が民事裁判(訴訟)に係る実例として,その他には以下の書面に関する筆跡鑑定が挙げられます。

  • 養子縁組届:主に養子縁組届の「養親になる人」欄下部の「養父」・「養母」欄の署名を筆跡鑑定します。
  • 婚姻届:主に婚姻届の「届出人署名押印」欄下部の「夫」・「妻」欄の署名を筆跡鑑定します。
  • 離婚届:主に離婚届の「届出人署名押印」欄下部の「夫」・「妻」欄の署名を筆跡鑑定します。
  • 公正証書遺言書:主に公正証書遺言書の「遺言者」欄の署名を筆跡鑑定します。
  • 遺産分割協議書:主に遺産分割協議書の「相続人」欄の住所氏名を筆跡鑑定します。

このように,民事裁判で筆跡鑑定が係る案件では自筆証書遺言書を除き,その他は主に署名の筆跡鑑定であることが分かります。筆跡鑑定人の中には署名だけの筆跡鑑定は信ぴょう性が低い。という否定的な意見の人もいるようですので,筆跡鑑定の結果により訴訟になる可能性がある方は,署名の筆跡鑑定をきちんと行える鑑定人を選びましょう。

裁判に必要な筆跡鑑定ができない

裁判に係る筆跡鑑定では署名の筆跡鑑定が多いのですが,いざ「筆跡鑑定をしよう。」というときに,ご本人様の自筆署名等が見つからないということがあります。

これは文書全体を筆跡鑑定する自筆証書遺言書にも言えることですが,一般家庭にパソコンとプリンターが普及して四半世紀経ち,スマートフォンやペンタブレットの普及も目覚ましく,紙にペンで筆記する機会がどんどん失われていることや,そうした書類があっても手元に残しておかない人が増えていることもその要因の一つです。

書類はかさばりますし,きちんと整理しておかないとどこに何をしまったか忘れてしまうので面倒だという意見があります。また法人の場合,書類保管の経費削減のためPDFファイルにして保管されることが多いのですが,内容が確認できれば良いという考えから容量を軽減できる低画質でスキャニングされるためプリントアウトされたものは画質が良好ではなく,筆跡鑑定ができないことがあります。

特に高齢者の方には,字を書くことが面倒になり代筆で済ませているという方も多くいらっしゃいますので,そういう方が死去されてから自筆証書遺言書が出てきても,本人確認のための筆跡鑑定をすることがかなわないケースも多くなってきています。

裁判で筆跡鑑定を軽視する

「筆跡鑑定 裁判」等のキーワードでネット検索をすると,「裁判において筆跡鑑定は有効ではない。」というご意見のブログを書いている人を見かけます。

こういうブログの内容を要約すると,過去の裁判において筆跡鑑定が認められなかったとか,警察の鑑識係を退職した者に鑑定をさせたら鑑定結果が「同一人」と「別人」の二つに割れたとかいう理由のようです。ブロガーの中には弁護士もいるようですが,言論の自由は日本国憲法で認められていますし,ブログに書かれたことを鵜呑みにする人もいないとは思いますが,これから裁判を起こそうと考えている方は少し注意が必要です。

裁判に筆跡鑑定書を提出してもらえない

自筆証書遺言書を不審に思い,筆跡鑑定を行い本人確認をしたところ「別人の筆跡」という鑑定結果が出たので,遺言書無効の裁判を起こそうと弁護士を雇い,同時に高額な筆跡鑑定書の作成を鑑定人に依頼してそれを入手し,万全の態勢で裁判に臨めるはずだった人が,雇った弁護士が筆跡鑑定に否定的な意見を持っていたため,肝心の筆跡鑑定書を裁判所に提出してもらえずに裁判で勝訴できませんでした。
これは実際にあった話ですが,そうならないためにも次の点に留意したいものです。

筆跡鑑定で裁判に臨むには

筆跡鑑定書が係る裁判に臨む際重要なことは,代理人になる弁護士が筆跡鑑定に肯定的な姿勢であること。少なくとも否定的な意見を持ってはいないことを確認してから訴訟代理人の契約をしましょう。そうしないとせっかくの筆跡鑑定書が蔑ろにされたり,訴訟を起こしたあなたの真意が曲げられたりして,思わぬ結果を招いてしまうかも知れません。
また,数か月から数年を共にたたかうのですから意思疎通ができる,会話がきちんと成立する弁護士さんを選びたいものです。

なお,これは筆跡鑑定のほか印章鑑定や特殊鑑定にも言えることですので,これから裁判に臨まれる方はもちろんですが,現在訴訟継続中の方で弁護士と「うまくいっていない」という方は念のため,少なくとも筆跡鑑定等に対する意見を確認することをお勧めいたします。もしも否定的な方であれば,話が通じ意見統一ができる弁護士さんに切り替えるところまで厭わずに行いましょう。

筆跡試料の作成:140回目

筆跡鑑定と印章鑑定の研究用試料の作成:2020年7月11日

ここ横浜は,いまのところ曇り空。

薄日もさして,窓を開けての換気も久しぶり。

湿気を含んだ外気に,なにかしらのエネルギーを感じました。

夏はもうすぐ。


最後までお読みいただきありがとうございました。
次の投稿まで,あなたと私に良い風が吹きますように。