中傷文の筆跡鑑定

筆跡試料作成2019

中傷文は悪質であるため筆跡鑑定を行い厳正な対処が必要

筆跡鑑定のご依頼として多いものの一つが「中傷文」です。中傷文は誰が書いたものであるかがわからないという意味においては,怪文書というカテゴリーに入りますが,怪文書と異なる点がいくつかあります。

怪文書の定義

怪文書とは「執筆者がわからない筆跡」を指します。世間一般でいう「怪文書」は内容が本当であることが多く,「告発文」等として現れて世間を騒がせたりします。告発文の筆跡鑑定では,対照する筆跡が関係者に絞られることが多く,その中から執筆者を特定できる頻度が高いことが挙げられます。

中傷文の定義

中傷文も「執筆者がわからない筆跡」ですが,事実と異なる根拠のないことを書いて対象者の評判を下げようとするものが多く,告発文より悪質であると言えます。中傷文の筆跡鑑定では次の点に注意しながら筆跡を鑑定していきます。

筆跡鑑定で中傷文の筆者を特定する

中傷文の筆跡鑑定を行い,執筆者を特定するために注意しておくことがあります。

中傷文が何に書かれているか

大抵の中傷文は紙に書かれた手紙形式であることが多く,筆跡鑑定に支障をきたすことはないのですが,まれにトイレの壁やベンチの背もたれ,喫煙室のテーブルの上など紙以外の物に書かれることがあります。こうしたものの場合,執筆面が塗装された板であったり,湾曲面であったりすることがほとんどですので,筆跡鑑定をする際も紙に対して行うノウハウをそのまま使用できないので鑑定作業が困難になります。また,紙であれば郵送していただくことができますが,トイレの壁やベンチなどは送っていただく訳にはいかないため写真撮影していただくか,こちらから出向くようになります。

中傷文のターゲットは誰か

中傷文を受け取った人は,そのこと自体にショックを受けてしまい内容をよく理解できないことが多いようです。筆跡鑑定のご依頼をいただいてみると,内容が依頼者ではなくご家族を中傷していたり,誰が書いたものかがわかるような「ヒント」が書かれていて,その方を犯人に仕立てあげようとしたりするものなど,巧妙な仕掛けがあることも珍しくありません。中傷文が直球であるのか変化球であるのかを見極めることは,筆跡鑑定の対象者を絞り込むことにつながります。

中傷文の筆者と思われる人物がいるか

筆跡鑑定で大切なことの一つに対象の絞り込みがありますが,中傷文を書いた人物に思いあたる方がいないかをご検討いただきます。しかし,皆さん平穏に過ごしていらっしゃいますので,ご自分に対して「敵意むき出しの人物がいる。」という方は少なく,この作業に時間がかかる方が結構いらっしゃいます。また,対象者を絞り込んだとき,その方の筆跡をお持ちでないとすぐに筆跡鑑定へ移行することはできませんので,今度は対象者の筆跡収集で更に時間がかかることがあります。

愉快犯の存在があるか

近年,SNSなどで「炎上」という言葉が聞かれるように,当初1対1でのもめ事に第三者が入ることにより,多勢に無勢の「いじめ」状態になり,次々と連鎖的に誹謗中傷が増えてゆくことがあります。不特定多数の人が利用するトイレや喫煙室などの公共の場ではこの「炎上」と同じことが生じて,寄せ書きのように中傷文が増えてゆくことがあります。そうしたものを「一人分」の筆跡として鑑定すると,対象者の中に執筆者がいたとしてもほかの筆跡と異同の判断が混ざってしまうため,正確な鑑定結果を得ることができなくなることがあります。
そのため,中傷文は「いじめ」の要素を含むことを念頭に置いて筆跡鑑定を行う範囲を精査したり,対象者を選別したりすることも大切になります。

中傷文を許してはいけない

中傷文は,それが公然とした場所に書かれたものならば「名誉棄損罪」や「侮辱罪」などが適用される犯罪行為です。

弊所のお客様の中には,筆跡鑑定で執筆者を突き止めようと行動したことで中傷文の被害がなくなったという方がいらっしゃいますが,中傷文を書かれ被害を受けた人が「決して許さない。」という姿勢を見せることは抑止効果がありますので「あきらめない。許さない。」と心がけて力強く行動しましょう。

115回目の筆跡試料の作成

筆跡鑑定の研究用試料の作成2019年11月1日

朝晩の冷え込みと空気の乾燥具合から秋を感じます。

ここ横浜では,ほぼ快晴の好日となっています。

今年も残すところあと2か月。きのう郵便局員さんが,年賀はがきの購入よろしく。とご挨拶に見えられました。

令和元年は災害や事件が続いているのですが,残りの日々は穏やかでありますように。


最後までお読みいただき,ありがとうございました。