筆跡の異同とは?

筆跡鑑定のはなし

筆跡異同診断書の成り立ち

弊所は,瑞明会同人でもありますので,「筆跡異同診断」という言葉を用いています。この言葉の発祥は,日本筆跡鑑定協会・会長の天野瑞明氏が,10数年前に考案した筆跡鑑定の簡易報告書で,当時数十万円もの費用が掛かった筆跡鑑定書から,鑑定結果や,その根拠となるエッセンスを抽出して,より身近なものとしてご提供するために「診断票」の体裁としてスタートしました。

それから間もなくして,私は門下生となり,同人として開業の許可をいただき,独自ネーミングの「筆跡異同診断」として,現在に至ります。

スラスラと読める方は少ない

ご相談やご依頼の際に,「筆跡異同診断書」を指定される際に,「筆跡,い・・・どう?診断書。ですか?」と,やや戸惑われながらおっしゃる方も多く,また,ご依頼の際の送り状に,鑑定内容を明記していただいている方の中には「筆跡移動診断書」とか「筆跡異動診断書」,若しくは「筆跡同異診断書」など,「おしい!」と,思ってしまう方も,年間数人はいらっしゃいます。

どうして「異同」ですか?

以前,懇意にしていただいている弁護士様から,尋ねられたことがあります。実は私も,師匠に教えを乞うていた頃,「異同?聞きなれない言葉だな」と疑問に思い,調べていました。

「かなり似ているもの同士の間での違い。違った点。」

新明解国語辞典ではこのように書いてありました。個人的に「かなり似ている」の「かなり」を,「可成り」と脳内変換し,「可能性がある」と解して,「50%以上似ている」という意味に捉えています。

「異なること。異なる点。ちがい。」

広辞苑ではこう書かれていました。あっさりした表記も,個人的には好きです。

確かに,筆跡鑑定は同じ文字同士を比較するので,同じように書かれている部分は存在するでしょう。そうしないと皆が同じ文字を認識できなくなるからです。「あ」は,どなたが書いても「あ」と読めなければいけません。筆跡鑑定に求められることは,同じ部分を「同じ」と再発見するのではなく,どのような根拠で「同じ」とするのか,理論づけるのか,といったことであり,その中に「違い」があるのか,ないのか,それをどのようにして明確にし,比較観察するのか,といったことが「筆跡鑑定なのだ。」と,当時奮い立ったことを覚えています。

ご質問をいただいた弁護士様には,もう少し丁寧にお話ししましたが,要するに「筆跡異同診断」は,正しい造語であるということです。

似ている・似ていないという言葉を使う鑑定人

お客様からのご相談の中には,別の鑑定所で鑑定を受け,その結果に納得できないということで,お問い合わせをいただくケースがあります。弊所では,セカンドオピニオンも大歓迎です。

そういった方の中に,「この字とこの字が似ている。」とか,「この書き方と,こっちの書き方は似ていない。」と,鑑定人から言われたと,お話しされる方がいます。その鑑定人に尋ねたいのですが,そっくりさんは本人さんなのか,本人さんの風貌が少し変わったら別人になるのか。

筆跡鑑定は,表面上の観察のみ行えばいいものではなく,本質に迫ることが重要なのです。


【出典】
三省堂 新明解国語辞典 第三版,p.69 (1986)
岩波書店 広辞苑 第三版,p.152 (1988)