認知症と筆跡鑑定

筆跡試料作成2020

筆跡でわかる認知機能

筆跡は年齢を重ねると共に変化していきますが,年齢を重ね高齢になると,これまで書けていたはずの文字を忘れてしまったり,記入欄に文字がきちんと収まらなくなったりします。誰もが通る道ですから致し方のないことですが,筆跡の衰えは御自分が高齢になったことを再確認させられるようで「かなり堪える」というお話を伺ったことがあります。

近年では,運転免許証を更新するときに満75歳以上であると認知機能検査というものを受けることが義務付けられており,その検査の一つでは,回答用紙に設問にある時刻を時計の絵を描きます。アナログ時計の数字の位置や分針と時針の位置が正確であるかをみて,認知機能を検査することができるそうです。

これは回答用紙に書かれた結果を見て判断されますが,文具メーカーのコクヨと電子機器メーカーのワコム,そして新潟医療福祉大学が共同で行っている研究では,「電子下敷」きにデジタルペンで筆記することにより,執筆者の筆の動きから,設問の回答をスムーズに書けているか否かを観察したり,執筆途中の筆圧やベクトルなどのデータを集積して,新たなソフトウエアの開発などに役立てているそうです。

認知症患者の筆跡

筆跡鑑定ではご高齢の方がお書きになられたとする筆跡を拝見する機会があります。中でも認知症患者の方の筆跡は特徴的で,赤の他人どうしの筆跡でも共通する書かれ方をしていることがあります。

認知症患者の筆跡鑑定を受け持った初期のころは筆跡を判読することも困難で,推理力を働かせながら読み解いてゆく作業に時間を費やしたものですが,次第に慣れてきてふと気づくと,認知症患者のご家族よりも,私の方が書いてある内容を正確に理解できていた。という境地にたどり着いていました。

ご高齢の方は若い方に比べ書き物を多くされる傾向にありますが,遺言書の筆跡鑑定などで差し出された対照資料の中には,お亡くなりになる直前までご自分の手帳に日記をつけていた男性や,大学ノートに家計簿のような書付をしていた女性の方などをお見掛けすることがあり,生活の営みは書くことでもあるのだなと,しみじみ拝見してしまいます。

筆跡試料の作成:通算137回目

筆跡鑑定・印章鑑定の研究用試料の作成:2020年6月11日

昨日は二十四節気の一つ「入梅」で,本日関東地方は梅雨入りしたそうです。

ここ横浜では,朝から昼ごろまでは風が強くても晴れていたのですが,昼過ぎに急速に天候が悪化して雨が降り始め,いまは風が強いままなので嵐のようになりました。

21日は部分日食があるので,その日が晴れることを祈っています。


最後までお読みいただきありがとうございます。
次の回まで,あなたと私に良い風が吹きますように。