2018.12.1-署名を筆跡鑑定することの重要性

筆跡試料作成2018

署名鑑定は筆跡鑑定の中心にある

弊所では2008年から「インターネット署名鑑定」というサービスを開始し,署名鑑定に特化した取り組みを続けています。遺言書や契約書などを筆跡鑑定する場合,最も重要な文字は署名であり,その筆跡を鑑定する技術を培ってきています。

一般的にも「あたりまえ」と思われることですが,実は弊所が取り組むきっかけとなったのは,ある弁護士さんからの忠告でした。

署名は偽造されやすい

その弁護士さんは,自筆証書遺言の鑑定依頼で知り合い,その後も年賀状のやり取りなどを続けさせていただいている方ですが,とある件の電話中に「署名は偽造されやすくないですか?」と聞かれたことがあり,筆跡鑑定人として5年目を迎えていた当時の私は,氏名も住所も他の文字も一緒くたに鑑定していたことに気づき,署名に特化した筆跡偽造の研究を開始しました。

そうして過ごしてみると,署名だけを要求する契約書類が世の中に多く,また,公正証書遺言でも遺言者欄に署名するだけであることや,携帯電話の契約などでも署名のみということに改めて驚きました。
なぜなら,一般的な氏名は3文字から5文字程度の文字数であり,また,男性では「郎」字,女性では「子」字が多く,女性の名前には平仮名や片仮名など画数の少ない文字が使われることもあり,名字も「佐藤」さんや「鈴木」さんなどが多く,鑑定案件でもよくお見掛けすることもあり,総じて「良く知ってる文字」が使われているからです。良く知られた文字は言い換えれば誰でも書くことができる文字であるため,他人の氏名を無作為に書いても,本人の署名とどこか似た部分ができてしまうものです。

偶発する類似性を悪用する者

文字は伝達のためのツールですから,誰が書いても同じような形にならないと他者が判読できず,書くことの意味を持ちませんので,同じ文字を書いたとき,誰が書いても似てしまう部分が出るものです。そのことを「書字行動の蓋然的事象」と呼んでいますが,無作為に書いた他人の氏名でも,本人となんとなく似てしまう部分ができてしまうこともあります。
しかし,偽造しようと企む者はそうした偶発的な類似性を悪用し,本人の特長も掴んで練習を重ねると,文字形態を似せることができてしまいます。

鑑定人は筆跡の偽造研究が使命

かつて存在した筆跡鑑定人の中に,鑑定結果を「別人」と訴えたい一心で,鑑定書の最初のページに,その鑑定人自身が対象となる筆跡を模倣した筆跡を掲載して「署名の偽造は簡単にできる」と謳ったことがありました。
突拍子もないことをやらかしたその鑑定人の鑑定書が,裁判所でどのように取り扱われたのか,ここに書く必要もないことですが,筆跡を模倣してそれを鑑定書に掲載した時点で筆跡鑑定人失格です。警察官が悪いことの見本として犯罪を行うようなものだからです。警察官なら懲戒免職でしょうが,恐ろしいことにこの鑑定人はそれから数年間活動していました。

しかし,この鑑定書は「可能性を追求することは重要である」という点において,私の心を動かしました。弁護士さんの何気ない一言や,異端の鑑定人の鑑定書の影響を受けて,筆跡偽造の研究を進め,その成果を取り入れた鑑定方法を確立したのが2011年です。

署名に特化した筆跡鑑定の旗手として

以前,「署名鑑定は偽造される恐れがあるので,署名だけで筆跡鑑定を行うことは危険だ」と提唱していた筆跡鑑定人がいました。その人は偽造の危険性に気づいたところで思考停止したようですが,筆跡鑑定人は研究者であるという側面があるので,その人は筆跡鑑定人に不向きだったのだろうと思います。

弊所では,一般の方から筆跡のサンプルを収集して,他者の筆跡を模倣する実験を行っており,その成果を署名偽造の研究にも生かしています。また,署名鑑定に特化した報告書や鑑定書を作成することにより,文章などの鑑定書より価格を抑える取り組みも行っています。

近年では,ペンタブレットへの署名も一般的になり,そうした署名を印刷した筆跡で鑑定を行うことも珍しいことではなくなりました。弊所では,署名文字に特化した筆跡鑑定の担い手として様々なご相談に対応しています。

筆跡試料の作成-82回目

2018.12.01筆跡試料の作成

今日は土曜日。ここ横浜では気持ちよく晴れていますが,少し肌寒くなりました。
平成最後の師走が始まります。


最後までお読みいただき,ありがとうございました。