筆跡鑑定人が教える遺言書の書き方
遺言書を自分で執筆する
日本で認められている遺言書には3種類の作り方があり,最も多いのは公証役場で作成する公正証書遺言で,年間10万人以上が作成しています。これはその方が120歳になるまで公証役場で保管され,焼失や破損の心配もないという利点があり,裁判所の検認も不要なので,そのまま相続手続きが可能です。
次に多いのは自分で遺言書を執筆する自筆証書遺言です。遺言執行するには検認手続が必要で全国の家庭裁判所で年間一万件以上の検認が行われています。自分で作成できる手軽さや書き直しが何回でもできるなど自由性が高く,遺言書作成セットなどが市販されている背景もあり,その件数は年々増加しています。
また,平成31年1月13日より施行される「遺言制度に関する見直し」により,これまで煩雑だった財産目録に関する記述をパソコンで作成したり,登記事項証明書などを添付したりできるようになり,更に,令和2年7月12日までには,自筆証書遺言を法務局で保管できるようになるため,焼失や破損の心配がなくなるほか,死亡した際の検認が不要になるなどの相続法の改正が行われるため,これまでの自由性に確実性と堅牢性が加わることになりますので,公正証書遺言の利用者数に迫る勢いになることは確実と思われます。
この他には,自筆やパソコンで作成した遺言書を公証役場へ持参して完成させる秘密証書遺言がありますが,今回は自筆証書遺言の書き方について,筆跡鑑定人の意見を書くことにします。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言には,民法第968条で決められた書き方があります。
- 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
- 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
簡潔な法文に見えますが「その全文」という部分が厄介なのだろうと思います。財産目録を始め,相続人の指名,祭祀継承者の指名,遺言執行者の指名など,人により様々ですので下調べや準備が必要です。
筆跡鑑定人が教える「書いてはいけない」遺言書
遺言書に記述する内容については人それぞれですので言及しません。ここでは、筆跡鑑定人から見て「筆跡鑑定が困難になってしまう。」遺言書を例に挙げ,書いてはいけない遺言書をお教えします。
遺言書を普段使っていない筆記具で執筆
普段はボールペンや鉛筆などを使っているのに,自筆証書遺言を執筆するときに限り,毛筆にチャレンジしてしまう人。ダメですよ。あなたが亡くなった後で筆跡鑑定が必要になった場合,毛筆で書かれたあなたの筆跡が必要になります。普段から毛筆を嗜んでいるならともかく,遺言を書く時だけ毛筆を使うなんてことは絶対避けましょう。普段から使っているボールペンでいいのです。
これは,万年筆等でも同じことが言えます。高価な筆記具を使ってみたくなる気持ちは押さえ,いつものボールペンで書きましょう。あなたの遺志と相続人を保護するためです。
遺言書を普段使っていない紙に執筆
遺言書を書こうとして気張ってしまい,最寄りの文房具店や画材店で高級な和紙などを購入し,それに書いてしまう人がいますが、いざ遺言を書こうとしたときに緊張してしまい普段の筆跡にならない可能性がありますのでお勧めしません。
また、カレンダーや新聞チラシの裏紙などに書いてしまう人がいますが、「故人はきちんとした人だったので、大切な遺言を裏紙なんかに書くはずない。」といった理由で疑われてしまい兼ねず、そうなると無用な争いを呼ぶことになりますのでこうした紙もお勧めしません。
家族でも見たことがない「変な紙」で作成された遺言書は何かと争議の元になりますので、ご自宅にいつも置いてあるような便箋などを使うようにしましょう。
遺言書をいつもと違う書き方で執筆
家にあった便箋と言っても、普段と書字方向(縦書き・横書き)が異なる便箋はやめましょう。あなたが普段から横書き派なら遺言書も横書きしましょう。そのときに横書きの便箋があればそれを使うことに問題はありません。
普段は年賀状から日記やメモまで全部横書きなのに,遺言を書こうとしたときに縦書きの便箋しか見当たらないから、それに縦書きで書こうなんてことは避けましょう。
その理由として、日本には同じ文字を縦書きと横書きで書いたときに筆跡が変わる人と変わらない人がいますが,ご自身がどちらのタイプかご存じない方が多いため,いつも通りの書字方向で書き方をお勧めするのです。
筆跡鑑定人が教える自筆証書遺言の書き方
あなたが日ごろから使っている筆記具で,家にある使い慣れた紙を用意し,無意識のうちに書いてしまう書字方向(縦書き・横書き)で,普段の書体(多くは行書体)を使って書きましょう。タイトルは「遺言書」が良いでしょう。専門知識が必要な場合は,市区町村の相談窓口や法律相談,書籍など確かな情報源を活用します。文末に署名と押印を忘れずに。押印は署名にかからないようにしましょう。書き終わったらコピーを取り,原本を封筒に入れて封印します。その後,保険証券や貴重品などをしまう場所に保管します。コピーの方はときどき見直をして,訂正する箇所が出てきたらコピーに赤ペンを入れておき、それを元に原本の書き直しをして、これを繰り返します。古い遺言書はトラブルの元になるのですぐに破棄します。
なお、遺言書の紛失や改ざんなどを心配される方は法務局で遺言書を保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」を利用しましょう。この制度を利用すると遺言書に日付や署名、押印が正しく行われているかといった形式のチェックを経ることができ、また、相続の際に裁判所で遺言書を開封し、検認してもらう手間も省けますので、ご遺族の方の御負担を少なくすることができます。
なお、遺言書を筆跡鑑定するときの詳細は 遺言書の真贋・偽造を筆跡鑑定 ページをご覧ください。
※2018年11月1日に公開した記事ですが、リライト記事に必要な文言等を追記、その他の部分も修正して2026年2月19日に再度公開しました。
筆跡試料の作成-79回目
横浜ではここ数日,よいお天気が続いています。空気も乾燥してきて,冬が近づいてくることを実感する時期です。

天気のことしか話題にできない人を「天候居士」と言うようです。太宰治の「乞食学生」にありますが,先日電車に乗ったとき,私と同じような人を見かけました。意外とその人口は多いかも知れませんね。
最後までお読みいただき,ありがとうございました。

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筆跡鑑定の鑑定調査を事業として2003年に開業しました。





