筆跡鑑定と錯視

2016-12-06筆跡鑑定のはなし

筆跡鑑定は錯視とのたたかい

鑑定環境の急速な発達

近年では,コンピューターや光学機器の発達などにより,精度の高い鑑定が可能になり,鑑定人にとって作業効率が大幅に良くなっています。
しかしながら鑑定人の人体としての能力は変わらず,長時間にわたる鑑定作業により,眼球や視神経,文字を認識する能力などに疲労が蓄積されていきます。

その影響として次のような懸念がでてきます

  • 同じ文字を見続けることにより,慣れが発生し注意力が散漫になり,微小な文字の類似点や相違点を見落としてしまうこと。鑑定結果に重大な影響を起こしてしまうので,鑑定作業では最も気をつけなければならない。
  • 「同じ文字を長時間見続けていると,その文字の形態が本当にその形であるか,分からなくなってしまう。」という経験などで知られている,ゲシュタルト崩壊を起こすこと。文字に対する基準が変化してしまうので,鑑定作業には不向きな現象。

弊所では,こういった状況を防ぐための対策として,同一案件に対する鑑定作業に,1日あたりの最大作業時間を設けています。

筆跡鑑定人が陥る,代表的な錯視

人として避けられない,物を見る際に起きる,脳や神経の錯覚現象については,鑑定結果に重大な影響を起こすような錯視を防ぐため,以下の代表的な錯視について,対策を行っています。

垂直水平錯視

垂直水平錯視
同じ長さの線分であっても,垂直な線分は水平な線分に比べ短く見える現象。

二分割錯視

二分割錯視
同じ長さの線分であっても,十字に交差する線分は単独の線分に比べ,短く見える現象。

ポンゾ錯視

ポンゾ錯視

ミュラー=リヤー錯視

ミュラーリヤー錯視

水平に並んだ,同じ長さの線分が,他の線分の影響を受けて,片方が短く見える現象。

鑑定作業時の対応策

文字形態や送筆画の観察には,格子状の網目線(グリッドパターン)を,筆跡の上にかけて観察を行っています。
また,鑑定結果を決定づけるような,重要度の高い文字や送筆画などは,長さや角度,大きさの比率を実際に計測し,確証を得ています。

錯視の対応策例
マス目を数えるだけで,線の長さに違いがあるかがわかります。

過信は危険であると考えています

筆跡鑑定人を名乗るのですから,当然,物を見る目には自信がなくてはいけませんが,「錯視」は,ヒトとして備わった能力でもあるというお話を聞いたことがあります。
長い進化の過程で手に入れた能力なのでしょうから,そこは逆らわず,自信過剰は危険であると考え,防衛策や対応策を講じて,自身の能力を素直に認め,適正な鑑定作業が行えるよう,私たち「筆跡鑑定人」は,日々こんなことも考えているのです。