遺言書の真贋を筆跡鑑定

筆跡鑑定を必要とする遺言書の種類

自筆証書遺言

jihitu司法統計資料によりますと,平成25年度に家庭裁判所で検認が行われた「自筆証書遺言」の件数は16,708件で,10年前の平成15年(11,364件)と比較して,1.5倍に増加しており,筆跡鑑定の依頼における割合が年々増加していることが,検認数の増加と比例していることがよくわかります。

お問い合わせの際に,「裁判所で検認されてしまったのですが,筆跡鑑定をしても無駄でしょうか?」といったご質問を受けることがありますが,ご安心ください。

裁判所で行われる検認は,「証拠保全」を目的として行われるものであり,「遺言書を書いた人物は,遺言者本人である。」と「認めている」訳ではありません。ですから,筆跡鑑定を行い,遺言者本人の筆跡であるかを確認することは,決して無駄ではないのです。

※封筒入りの遺言書は裁判所で検認を行う必要があり,検認前に開封すると,5万円の過料を科せられることがあります。

公正証書遺言

kousei自筆証書遺言と比較して,筆跡鑑定の依頼割合は少ないものの依頼件数は増加しており,日本公証人連合会の公表では,平成26年度に作成された「公正証書遺言」の件数は10万4,490件で,10年前の平成16年(66,592件)と比較して,1.6倍に増加しており,自筆証書遺言と同様に,依頼割合の増加が,公正証書遺言作成の増加と比例していることがわかります。

お問い合わせの際に,「公正証書遺言は,筆跡鑑定をしても意味がありませんか?」といったご質問を受けることがありますが,ご安心ください。

公正証書遺言は,遺言者の判断能力が問われ,重度の認知症や,懐柔による洗脳状態などでは無効となるケースがあり,また,公証役場で作成した者が,遺言者本人であると認められないケースもあります(法律関係者談)。

このような実態から,筆跡鑑定を通じて,公正証書遺言の作成者が,遺言者本人であるか否かを検証する必要性が十分にあると考えられます。

秘密証書遺言

自筆やワープロなどで遺言書を作成して,公証役場へ赴き手続きをして完成する遺言書です。原本は本人が保管することになり,遺言内容は誰にもわからず,裁判所での検認も必要なので「自筆証書遺言」に近いのですが,ワープロ作成(署名を除く)が認められているところが大きな違いです。
自筆の場合には筆跡鑑定を,ワープロ作成の場合には語句分解調査(特殊調査)も行い,遺言者がよく使うフレーズや言い回しと合わせて検証し,執筆者の系統割り出しを行います。
遺言書の筆跡鑑定としては,少ない案件ですが,特殊調査の機会が多い案件です。

遺言書を筆跡鑑定する目的は2種類。

本人確認 ~被相続人であるかを筆跡鑑定する~

一般的な遺言書の鑑定では,「遺言者本人の筆跡であるか」を,確認する目的の筆跡鑑定があります。この鑑定を行う場合,対照資料としてご用意いただく資料としては,遺言書の日付に近い時期に執筆された「遺言者本人」の筆跡資料が必要になります。また,遺言書と同じ筆記具,同じ書式であること,更にメモ等ではなく,契約書や手紙文など,ある程度「カッチリ」した文書が望ましいです。もちろん,上記要件を満たした資料が少ない場合には,要件に満たない筆跡資料でも鑑定を行うことはできますが,「この資料で大丈夫?」と思われる方は,お気軽にお問い合わせください。

偽造者の発見 ~遺言書偽造を筆跡鑑定で見破る~

遺言書の,もうひとつの鑑定では「遺言書が偽造された可能性の有無」を確認する目的の筆跡鑑定です。この鑑定は,「本人確認のための筆跡鑑定」の結果が「別人傾向」のときに行われ,裁判所から指示されて行うことも少なくありません。対照資料は「偽造したことが疑わしい人物」の筆跡資料になりますが,遺言内容で極端に優遇されている人物や,その配偶者であることが多く,親戚付き合いが普通に行われていれば,年賀状や手紙のやり取りが想起されますので,筆跡資料を収集することも,さほど困難ではありません。資料の要件としては,前者と同様ですが,疑わしい人物のほとんどが,争いが起きた時点で生存していますので,筆跡資料が手薄でも,新たに執筆された筆跡を収集する方法があるため,事前に御相談ください。

遺言書は,遺言者の遺志を書き残したものです。生前,どのようなお付き合いをされていたのか,どのように思われていたのかを知る「お手紙」でもあると思います。「筆跡鑑定」ができることは「執筆者の特定」に過ぎませんが,その内容が,故人の遺志であるのか否かは,相続される方にとどまらず親類の皆様にまで及びますので,的確な資料をそろえ,確かな鑑定結果をお求めください。

裁判所が無効とした遺言書

ここに一通の自筆証書遺言書があり,きちんと認識できる状態で執筆されており,文面の内容も申し分なく必要事項は全て記載され,文末には署名と実印が押印されている。本書は封筒に入れて封がされていたが,一度開かれて再び封をし直した跡があった。遺言書は被相続人の所有する金庫の中から発見された。

このように書くと,完璧な状態の遺言書のように思えますが,2015年11月20日,最高裁判所は遺言書を無効としました。その理由としてこの遺言書には,左上部から右下部へ赤いボールペンで斜線が引かれていたのです。
自筆遺言書の内容を変更するには「~字訂正,~字加筆」として押印することや,無効にしたい場合は破棄するなどの方法が民法では定められていますが,斜線を引くことは,果たして変更や無効に当たるのでしょうか?

地裁の判決「遺言書は有効」

一審では,遺言書に斜線を引いたのは被相続人本人であると認めた上で,元の筆跡が判読できる状態であれば自筆証書遺言は有効である,としました。

高裁の判決「遺言書を破棄したことにならない」

二審では,斜線を引いただけでは自筆証書遺言を破棄したことに当たらない,として原告の請求を退けました。

最高裁の判決「遺言書は無効」

紙面全体に斜線を引くことは,一般的な意味に照らしたとき,遺言書全体を無効にする意志の表れである,と判断し,その行為を「破棄」と結論付け,自筆証書遺言は無効となりました。

この事件の危険性

この自筆証書遺言 無効確認の事件とその判決がはらむ危険性として,自筆証書遺言を最初に発見した者が開封してしまい,内容が気に入らないとしたとき,赤色のボールペンで斜線を引き,適当な封筒に再封印してしまえば,その遺言が後に発見されても,被相続人の意思とは無関係に「自筆証書遺言は無効」とされてしまうことです。つまり,事実を容易に曲げることができる点にあります。複数の違法行為のニオイがしますが,それを立証することは困難であると予想されるため,被相続人の最後の願いが,叶わなくなることが起きないことを願うばかりです。


 

2016-10-03