いじめ問題の筆跡鑑定

いじめ被害者の保護と,加害者の今後のために。

いじめに起因する筆跡鑑定のご相談は,年間に十数件と,決して少なくありません。
多くは「いじめ被害者」からの依頼であり,その大半は小中学生が抱えているお悩みです。
依頼例では,ノートなどから切り取った紙片に,悪い言葉を使って書かれた中傷文や,机などへの書き込み,また,いじめ被害者宅のドアに中傷文を貼り付けるなど,多岐にわたりますが,「誰が書いたのかわからない」という位置づけでは「怪文書」に含まれます。しかし,その怪文書を書いたと疑わしき人物が未成年者であり,鑑定できる年齢制限や,対照資料の収集の仕方に注意が必要となりますので,別項としてまとめました。
怪文書と同様に,「疑わしい人物」の選抜を的確に行い,適切な対照資料をそろえないと,第二の被害者を生む危険もありますので,細心の注意が必要です。

比較対象できる年齢には,限りがあります

一般的に,小学校低学年(1~2年生)は,漢字を習い始めたばかりであり,授業スピードも遅いため,ゆっくりとした文字が書かれます。執筆時の個性もでき始めるのでしょうが,成長スピードが速いため,日々変化に富み,日記のように,毎日の筆跡を確認できる対照資料が存在しても,鑑定は困難なケースが多くあります。
小学校中学年(3~4年生)では,徐々に授業スピードが速くなり,同時に内容も難しくなりますので,筆記に雑な部分が目立つようになります。低学年と比較して常同性(文字や画を常に同じように書くこと)も育ちますが,人に感化されやすくなる時期でもありますので,友達が「かわいい」文字を書いているとすぐにまねをします。早生まれと遅生まれの違いが残る時期でもありますので,個人差も大きく,鑑定が困難なことがあります。
小学校高学年(5~6年生)では,ノートなどを見ると男女の差や,性格の差が出てくる時期です。大半は常同性が発現していますので,鑑定は可能となりますが,「はやり文字」に感化されていますので,注意が必要です。実例では,同じ日の午前と午後の授業で,同じ字の書き方が筆順から変わっていた例があり,成人では考えられない変化のスピードを目の当たりにしたことがあります。鑑定は容易ではありませんが,常同性が発現していますので,1~4年生までと比較して,鑑定できる可能性は増えます。
これまでのご相談から,上記のようにまとめられますが,鑑定可能な年齢は,おおよそ10歳ごろからという認識を持っています。成人と違い常同性の出方に個人差が激しいため,まずは対照資料を慎重に拝見してから,鑑定の可否を判断させていただいています。

対照資料の選び方

「いじめ問題」として,過去の依頼実績から多く挙げられる内容をお伝えしていますが,ここでは,普段あまり書かない文字を,対照資料として収集する際のポイントをお教えします。
「殺」字
この文字は脅迫文でも使われる文字ですが,小学4年生で習得するため,いじめの一環となる怪文書にも頻繁に登場します。しかし,日常生活で使用することは滅多にないため,対照資料として収集することが困難な文字のひとつです。この文字が怪文書に書かれている際には,対照資料で次の文字を収集します。
それは「役」・「段」・「設」・「投」字など「殳」を含む文字です。部首を比較観察しますので,鑑定精度は下がりますが,「殳」字は個人差が出やすい文字でもありますので,「殺」字が対照資料にない場合には,対照資料として鑑定に代用することができるのです。
実際に「市役所」・「階段」・「設備」・「投球」などの熟語に紛れ込ませ,サンプル筆跡として収集したこともありますが,そのときは鑑定に役立ちました。
対照資料を選ぶ際の注意点は,このほかにもございますが,案件ごとに異なりますので,鑑定をお考えの方は事前にお問い合わせください。

いじめ問題の鑑定は,大半が未成年者であるため,「犯人捜しのようなことを行うのは,いかがなものか」といったご意見も存在します。しかし,いじめる側は軽い気持ちでも,いじめられる側は深く傷つくのですから,放っておいて良いことではありません。また,誤った方向へ進もうとしているお子様には,適切な指導や教育が必要ですから,鑑定の後には,保護者や教育者の方の手厚いケアにより「もう二度とやらない」と改心させることまでして,真の解決になると思います。
ポイントを押さえた的確な資料で,精度の高い,確かな鑑定結果をお求めください。


 

2017-05-10